「……うん……」



優しい瞳に頷いて、ゆっくりと元来た道を戻ると。



「あれ……」



凌空がいない。


キョロキョロしたあたしに、



「凌空は帰ったの。今は会えないって」


「……」


「引き留めたんだけどね……」



凌空の気持ちも痛いほどわかる。


凌空は今、きっと、自分を責め続けてる……。



おばさんは一回家に帰ると言い、ノックをしてから部屋に入ると上半身を起こした隼人は窓の外を見ていた。



「おう、結良」



いつもの、隼人。


さっき廊下で聞いた、絶望的な声を出した隼人とは別人みたいに。


でも、それは必死に抑えようとしていただけだったと知るのもすぐで。



「……隼人……ごめんなさい……」



震える声を出したあたしに、隼人の顔が曇った。



「……ちげーだろ」



フイッと窓の方に顔をむけ。



「自分のせいだなんて、死んでも思うな」



強くて冷たい声を放ったあと、隼人は顔を歪ませて布団を思いっきり叩いた。



「クソッ……!!」



うっ……。


隼人がこんな風に感情をあらわにするのは初めて。 


ヤケにもなるよね……。


甲子園というただ一つの目標のために、毎日練習をがんばってきたのに。


目前で、こんな事故に遭ってマウンドに立てなくなるなんて、夢にも思わなかったよね。


大粒の涙が頬を濡らす。


声が漏れないように必死でこらえた。


周りが泣くのは違うから。


泣きたいのは……隼人の方だ。