「おいっ!」
「いい話でまとめようとすんなよ。ほんとはコイツ人質にして、ソイツ呼び出す作戦だったじゃねえか」
コイツ……は隼人で。
ソイツ……は凌空……?
話が一件落着したと思ったときに仲間割れに近い小競り合いが起き、
「んで、ふたりまとめてぼっこぼこー」
「黙れえええええっ!」
海道くんが仲間の頬を一発殴った。
わわっ。
目の前で、本気の殴り合いを始めてみたあたしは心臓が飛びあがりそうになる。
殴られた男はその場に倒れ込み、「痛え」と抑える唇には血がにじんでいた。
……どっちにしても、隼人は無事で帰れる保証なんてなかったんだ。
だけど花音ちゃんが正しい判断をしてくれたから。
一度は裏切ったかもしれないけど、最後は守ろうとしてくれた。
だから、あたし達をここへ連れて来てくれたんだよね?
本当に、隼人が好きだから……。
その想いは歪んだものじゃなく、真っ直ぐだったことには間違いない。
少し落ち着いてから周りを見ると、側にはスコアブックと投手ファイルが落ちていた。
すぐ拾いにいって、胸に抱えた。
「こんな物のために、ひとりでキケンをおかさないでよっ」
「こんなの、じゃねえよ。これはチームの心臓部と同じくらいすげー大事だし、な」
隼人の視線の先は凌空。
「……借りを作りやがって……」
口調は乱暴なくせに、目は真っ赤で。
その腕は、隼人しっかり支えてる。
……凌空……。
こんな目に遭った隼人に、責任を感じてるのかな……。
自分を庇うためにひとりでここに来た隼人の想いに……。
ついさっきまでは、隼人に対して苛立ちを見せていた凌空が。
仲違いしていたふたりが。
またひとつになっていく……。
そう簡単に壊れるはずのない絆が見えた気がした。
遠くで、救急車のサイレンが聞こえてきた。
「もう大丈夫だよ、隼人……」
「ああ……」
隼人は安心したように微笑むと、瞳を閉じた。