ガランとした廊下を通り、教室に入ると。
「……っ」
花音ちゃんがひとり席に座り、窓の外をぼーっと眺めていた。
そこは隼人の席で。
トクン……と、焦りにも似た鼓動があたしの胸を打ちつけた。
気配を感じ取ったのか、花音ちゃんが首をこっちに振る。
「あ……」
思わず声を漏らしたのは、その顔に幾筋もの涙のあとがあったから。
躊躇いながらも声を掛ける。
「あの……隼人、見なかった……?」
「うん。さっきまでここにいたけど」
……やっぱり。
当然のように答えられて、ウッと喉の奥に言葉が飲みこまれそうになる。
なにしてたの?
そう聞きたいのを抑えて。
「えっと……まだ練習に来てないんだけど……なにか……知ってる?」
あえて冷静さを残して聞くと、花音ちゃんはフッと笑った。
「結良ちゃんに矢澤くんのこと聞かれるなんて、なんか不思議な感じ」
勝ち誇ったように口角をあげ、立て続けに
「なにしてたか知りたい?」
なにって……。
知りたいし、今隼人がどこにいるのか知ってるなら教えてほしい。
会話が核心に迫ろうとしたその刹那。
微かに足音が聞こえた。
……?
もう誰もいない校舎で、だんだんと近づいて来る足音に意識が行くのはあたしだけじゃなかったらしく。
花音ちゃんも音の方に顔を向ける。
コツ…コツ……。
急いでいるわけでもないけど、力強く廊下を蹴るその音からは、感情が高ぶっているのが伝わってくる。