「晃は野球部じゃないから、桜宮の野球部は直接関与しないし、入ってくる情報を耳にするだけなら罪にはならないでしょ?」
「……おい。自分が何言ってるか分かってんのか」
自分でも不気味なほど、低い声が出た。
手塚はひるまない。
「凌空くんもあたしに心許してくれてたから、青翔メンバーのこと色々教えてくれたんだあ。ファイルのデータには、選手の弱点まで細かく書いてあった、ふふっ」
むしろ、魂が抜けたように笑い。
「ピンチの時は心理戦がモノを言うんだってね。凌空くんが教えてくれた。その情報があれば攻略しやすいかもね」
目は死んだように座っている。
「なんでそんなことっ……」
「3人が結束して、甲子園目指してるのがイヤだったからに決まってるでしょ!」
手塚の肩を揺さぶると、途端に目力が戻り俺に噛みつく。
「そのためには、どんな手を使っても桜宮に頑張ってもらうしかないじゃない!!」
「……っ」
そんなことを思ってたのか……?
凌空は、野球部の情報を聞き出すことにまで利用されたのか……?
拳を作った手は、ワナワナと震えた。
女じゃなかったら、間違いなく殴ってた。
「晃がホントに野球部に渡してるかどうかは知らないけど、それが渡ったら、凌空くんはおしまいだね」
手塚はもう正気を失っている。
「部外秘のデータの入ったファイルが部室にあることを教えてくれたんだし。凌空くんペラペラしゃべってくれるから」
「……」
「差し入れをロッカーに入れときたいって言ったら、部室に入るのも許可してくれたの。おかげで、怪しまれずに入れて助かった」
手塚にはもうなにを言っても無駄だ。
俺は決意を固めて手塚を見据えた。
「凌空のせいにはさせない、データは絶対に俺が取り返す。海道に会わせろ」