見てるのがつらくて視線を中へ戻し、昇降口に向かう。


結良に別れを切り出すのは迷ったし勇気がいった。


でも、今の俺にはそうするしかなかったんだ。


体育祭のとき結良にキスしてた凌空を見て、結良への気持ちを確信した。



結良のせいじゃない、凌空のせいでもない。


……結局は、弱い俺のせいなんだ。



結良は……突然のことで戸惑ったよな。


自分からコクっといて、一方的に別れを告げて。


卑怯だ。


でも、この三角関係の殻を誰かがぶち破らないと、全員が行き場の無い空間に浮かんだままになるようで……。


凌空は俺を殴ろうとしたほど、結良を想ってる。


結良も自由の身になれば、遠慮しないで自分の心と向き合えるだろ?


そうすれば、本当に好きなのは誰なのかが分かるはずだから……。


後悔は、してない。


凌空のことは……ひとまず静観するしかないか。




「あ」



階段を降りかけて、体をUターン。


着替え一式を入れたエナメルを、教室に置きっぱなしだったのを思い出したんだ。



「めんどくせえな」



口にしながら教室へ戻る。


時刻は2時。


試験は午前中で終わり、校舎内に残ってる生徒はいない。

明るいくせにこんなにがらんとしてるのを不気味に思いながら教室へ急ぐと、そこには置き去りにされたままの俺のエナメルと。



「矢澤くん……」


「わあっ……!!」




……手塚がいた。


人が居るなんて思いもしなかったから、素で驚いた。


心臓がバクバク言ってる。



「驚かせちゃってごめんね」