【隼人side】



「───その件はあまり広めないように。選手同士が疑いを持つのが一番怖いからな」


「わかりました。……じゃあ、またグラウンドで」



一礼して、俺は多目的室を出た。



試験が終わって昼飯を食ったあと、俺は広田監督と30分くらい話をしていた。


広田監督は、選手とのコミュニケーションを大切にする。


グラウンドでは選手とよく話し、特に1軍の選手を中心とし、制服姿でじっくり話をすることもある。


今悩んでること、興味があること。野球以外のことでもなんでも。


そうやって、選手の心理状態を確認しているらしい。



この機会にスコアやファイルがなくなっている件にも触れた。


これを知っているのは、向井と俺。そして結良。


悪用されてる可能性は低いし、データならUSBメモリにも入っている。


あまり事を大きくしないようにとのことで話はついた。




多目的室は、校舎の一番端。


窓の外に目をやると、野球部のグラウンドが見えた。


アップメニューは終わっているようで、向井を中心にノックが行われていた。


こんな風に上から見ることなんてないから新鮮だ。


あの中で俺はいつも練習してんのか……。


不思議な気持ちで眺めてると。



「……あ」



結良を見つけた。


ボールの入ったカゴを抱えてグランドを走っている。


頑張ってんな。


その姿を追う胸の中は、やがて鈍い痛みに支配されていく。