もちろんそれだけが原因じゃない。
あたしが、隼人に好きって態度を見せなかったから……。
「隼人は悪くないのっ!悪いのはあたしだから!」
あたしの曖昧な態度が、隼人にそういう決断をさせたの。
だから、隼人を責めないで。
ジッと凌空の目をみつめる。
「なんでだよっ……」
隼人を庇うように立ちはだかったあたしを見て、凌空が辛そうに顔を歪めた。
……っ。
凌空の瞳を揺らすソレが、ジワジワとあたしの胸を締め付けていく。
「ふざけんなっ!」
その瞳を逸らして捨て台詞を吐いた凌空は、パイプ椅子を蹴り倒すと部室を出て行った。
……はぁっ……。
あたしはその場にしゃがみ、顔を両手で覆った。
向井くんの重いタメ息が、部室に落ちる。
「なにがあったかよくわかんねえけど、部にこういうの持ち込むな」
苦しそうに吐き出す向井くんの言葉は、主将として間違ってない。
「隼人わかってんのか、あと10日だぞ。なに考えてんだ」
……そう。県大会開幕まで、あと10日。
そんな時期に女のことで、2枚看板の隼人と凌空が仲互いとか、絶対にあっちゃいけない。
……あり得ない。
向井くんが隼人に見せた苛立ちは、すべてあたしが引き金で……もう胸が張り裂けそう。
出来るなら、消えてしまいたいと思う程に。
「…………悪い」
続けて部室を出て行った隼人が発したのは、この言葉だけだった。