「腹へったー」
「メシだメシ!」
7時くらいになると、みんな休憩がてら軽食を摂る。
あたしはその時間を利用して、部室の近くでボール磨きをしていた。
ずっとやりたかったんだけど、優先する仕事がありすぎてそんな暇さえなくて。
今日はこれをやるって決めてたんだ。
汚れがひどいものは中性洗剤をしみこませた布で拭き、縫い目がほころびているものは針と糸で直していく。
「いたたっ」
急いでたら、針を人差し指に刺してしまった。
血が指先にぷくっと浮かびあがってくる。
「はい」
そのタイミングで、絆創膏がひょいと差し出された。
「わわっ……!」
差し出し主は凌空で、ニコッと笑うとあたしの隣に腰を下ろした。
「結良が針持ってる時点で用意しとかなきゃーって思ったら、ちょうどだったなー」
「ひっどーーー!でも助かった。ありがとう」
笑ながら受け取って、人差し指に巻く。
凌空はおにぎりの包みを開ける。
「今日はなんだか災難だったな」
「ほんと恥ずかしい……」
一生懸命だったあの時のことは否定しないけど、あとで考えると消したい過去だよ。
「結良があんなに向かってくなんて、正直びっくりした」
「へへへ」
だから笑って済ますしかない。