……フラフラするのは、足が痛いからじゃない。



「大丈夫?」



大丈夫じゃないって言ったら、どうする……?


……言えるわけない。


コクリとうなずいて、バスが止まるのを目で追う。



ーープシュー……ドアが開いて……



「乗って」



背中を軽く押され、振り返る。



「え、隼人は……」


「送れなくて……ごめん」



その目は……悲しそうに見えた。



……隼人……?


心が泣いているようなその目を伏せると、押し込めるようにあたしの背中を押した。


あたしと隼人を遮断するように、ドアが閉まる。



「お掴まりください」



そんなアナウンスに無意識に吊り革を掴むと、バスは発車した。



「隼人っ……」



我に返って名前を呼ぶけど、隼人はどんどん小さくなって。


……やがて、見えなくなった。



「……っ……」



あたしは力なく、目の前の空いていた席に座る。




たったの20分。


バスを待っているこの20分で、ものすごいことが起きたような気がする。




「ふっ…ふははっ……」



込み上げてくるのは笑い。


気が抜けて、まともにこの状況を受け入れられない。



そのあとには悲しさが襲ってきて、両手で顔を抑えた。



隼人がさっきのキスを見たとして。


キスをしてきた凌空を責められない。


今までの積み重ねが、今日に繋がったんだよ。


バチが当たったんだよ……。





ねぇ、隼人。


もう遅い?


あたし気づいたんだよ。


隼人が好きだって。


なのに、なのに……。





隼人を好きだと気づいたその日に。


一度も隼人に好きだと言えないまま。



───あたしは失恋した。