ーーポタッ……。

我慢できなくて、手の甲に、涙の滴が落ちた。



泣いたって消えるわけじゃない。


5年前のキスは時効だとして。


今回のキスは許されない。


確かに唇が重なったあの時間は、戻せないんだから……。



「足、痛むのか?」



ちがう、ちがうの。


優しい言葉を掛けられるほど、胸が苦しくなる。


我慢していた嗚咽まで一緒に漏れて。



「ううっ……うっ……」



ひたすら涙を落とす。



「川瀬さん、大丈夫……?」



係の子がオロオロと声をあげる中、突然、隼人があたしを抱え上げた。



「この足じゃ閉会式も無理だな。中に連れてく」



隼人は係の子にそう言うと、泣きじゃくるあたしをそのまま校舎の中へ連れて行った。





静まり返った校舎の中は、薄暗くてひんやりしていた。


外の熱気がウソみたいに。


隼人は昇降口から一番近い1年生の教室に入ると、机の上にあたしを優しく降ろした。


正面に、隼人が立つ。



「一気に汗が引いてくな」



あたしはうつむいたまま、何も言えずにいた。



このままでいいの?


隼人に秘密を持ったまま、なにもなかったようにするの?