それから十数分後。
リレーの招集場所に、凌空はギリギリでやって来た。
「どこ行ってたんだよ」
凌空の胸元を、軽くパンチする。
平常心……、自分に言い聞かせながら。
「あー、腹痛くて便所ー」
……ウソつきやがって。
軽々とウソを放った唇は、さっき結良に重ねられていたもので。
……っ。
グーにした手にギュッと力をこめ……力を解き放つ。
……わかってただろ?
"奪おうなんて1ミリも考えてねえから"
それが本心じゃないって。
凌空が簡単に結良への想いを消せるはずないって。
なにより。
凌空が日本に帰って来た理由がいい証拠だ。
凌空が自宅に戻った後、俺は母さんから凌空の帰国の真相を聞いた。
カッコつけやがって。
結良を甲子園に連れてくためだろ?
……その約束を果たせそうもない俺に、痺れを切らしたんだろ……?
どういうつもりで手塚とつき合ったか知らねえが、さっきのキスが凌空の想いの証拠だ。
情けねえな、俺。
ふたりのキスから逃げるしか出来なかった。
凌空を一発ぶん殴る勇気もねえ。
それが出来ないのは、未だに感じる負い目。
凌空のいない間に、結良を奪ったから。
……結良の気持ちに、自信がないからだ。
結良はどんな気持ちで凌空のキスを受け入れた……?
考えると、胸が張り裂けそうになった。
「いよいよラストの種目だ。気合入れて行こうぜ!」
足首を回しながら俺の肩に手を乗せる凌空に、俺は「おう」とだけ返した。