「おう、芳人(ヨシト)」


「隼人さん、棒倒し超かっこ良かったっすね!」


「サンキュ、悪い、急いでんだ」



悪いけど世間話をしてる余裕はなかった。


同じ赤組の芳人の肩を軽くたたき、急ぎ足で去ろうとしたとき。



「あ、川瀬マネージャー、足大丈夫でした?」


「足がどうしたって?」



結良のことを聞かれ、足が止まった。



「昨日の練習で、かなり激しい打球が足に当たったんです。自分でスプレーするから大丈夫とは言ってたんですけど。気になって」


「それ本当か?」



結良からは何も聞いてない。


今日の結良はどうだったか考えて……何度か足首に触れてる姿を思い出す。


それから一気に水道まで向かったが、結良の姿はなかった。


ここじゃないのか?


校庭の隅にある別の水道までやって来たとき、ピンク色のTシャツがふたつ目に飛び込んできた。



ドクンッ……。


結良と凌空だ。


しゃがんだまま見つめ合う2人には特別な空気が漂っているように見えて、足が棒のように動かなくなった。



なんで……ふたりが……。


ザワザワする胸。



───次の瞬間、見てしまった。




ふたりがキスをするところを……。





俺はそのまま、踵を返した。