「でも、矢澤くんがダメでも桐谷くんと付き合えるなんて、やっぱ可愛い子は得だよねー。羨ましいっ」
ピーッ。
そこへちょうど、終わりの合図を告げる笛が鳴り。
「あ、終わっちゃった。じゃ、またね!」
美咲ちゃんは手を振って2組の人たちの元へ走っていく。
ボールを胸に抱えたあたしは、その場に立ち尽くした。
美咲ちゃんの話が本当なら。
いつまで花音ちゃんは隼人を好きだったんだろう。
───"ふたりでいるときもあんな感じなの?"
───"矢澤くんから告白したんだ?"
仲良くなり始めの頃、あたしと隼人について色々聞いてきた花音ちゃんは、隼人のことがまだ好きだったの?
花音ちゃんの恋愛観を、あたしはよく知ってる。
熱く語ってくれたから。
それはもしかして、あたしへの皮肉も含まれてた?
実はあたし、ライバル視されてた?
……そっか。
なんとなく分かってきた。
花音ちゃんの今のあたしへの態度は、凌空だけのことじゃなく、隼人を好きだった頃のことも繋がってるんだと。
そして、隼人に相談したとき、あたしに謝って来た理由も。
隼人は、花音ちゃんがあたしに見せる態度は自分も関係してるって思ったんだ。
フった相手とあたしが仲良くなって、隼人はずっと気を揉んでいたに違いない……。
……どんどん深くなっていくグレー。
そんなあたしの想いを知ってか知らずか。
開いた体育館のドアから見える外の雨は、いっそう激しさを増していた。