投球練習に集中している隼人は、あたしに気づかない。
邪魔にならないように、少し離れた場所から練習を見守る。
隼人が見ているのは、正面だけ。
まるで、その先にバッターが居るかのように真っ直ぐ前を見据えて。
この目がすごく好き。
迷いのない、自信にあふれた目。
普段の優しい隼人とは、べつの隼人に出会える瞬間。
自分の部屋でボールの音を聞いたり眺めたりするのもいいけど。
こうして、同じ高さで夜の練習を見るのも好きだった。
それは付き合う前も後も変わらない。
「おっ、結良……」
隼人が気づき、あたしはさらに近づいた。
「お疲れ様。今日もがんばってるね」
持ってきたスポーツドリンクを手渡す。
「サンキュ。ちょうど一息入れようとしてたとこ」
隼人は表情を緩めると、木製のベンチへ座った。
このベンチも、隼人のお父さん手作り。
昔は3人でここに座って、アイスを食べたりしていたんだ。
「調子はどう?」
「うん、変わらない」
隼人は前かがみで膝の上に手を置くと、息を吐いた。
背中が大きく動いている。
相当投げ込んだみたい。