「こうやって喋ったりしたこと、花音ちゃんには言わないでね?」
「どうして?」
「えっとぉ……花音ちゃんが、妬くかなあって……」
「そうかあ?」
「とにかくお願いっ!」
それはねえだろ。
まあ……そこまで念押すなら言わねえけど。
「あ、じゃあ……あたし、ちょっと行ってくるね」
結良は、人指し指を定まらない方向に向ける。
それは上なのか下なのか、横なのか……。
「ん?どこ?」
「は、隼人んとこっ……」
ちょっと照れながらそう言う結良は、しっかり隼人の彼女をやってるようで。
「あー……了解。風邪ひくなよ」
「うん、じゃあおやすみ」
「それと、チョコの食いすぎには注意」
「もうっ!」
「はははっ」
窓が閉まり、部屋の電気が消えた。
そのあと玄関が開く音がして。
そのまま身動きせずに外の音に耳を傾けていると、しばらくして風を切る音が止み。
ふたりの声が微かに運ばれてきて……俺は窓を閉めた。
"三角関係"なんて。
言葉にしたら収まりがよくて、誰でも耳慣れてる単語。
……だけど、これほど残酷な響きはないかもしれない。
それでも。
俺たちの関係は、そんなくすんだ言葉で、歪んだりぶっ壊されたりしねえ。
このときの俺は固く、そう信じていた───