「行こう!沙月!」
「じゃ、結良頑張ってね!」
「うん、また明日ね……」
ふたりを見送りながら、気になることがもう一つ。
あたしが野球部に夢中になっている間に、花音ちゃんは沙月との距離をグッと縮めた。
呼び方が沙月ちゃんから"沙月"になったことがそれを象徴している。
あたしのことは相変わらず"結良ちゃん"なのに。
女子の世界で生きていれば、そんな些細な変化にも敏感になってしまう。
休み時間は机で突っ伏すあたしだから、沙月と花音ちゃんはふたりでお喋りしてるみたいだし。
沙月はたまにあたしの様子を見に来てくれるけど、花音ちゃんがあたしの席に出向いたことは一度もない。
もしかしたら、花音ちゃんは沙月とふたりで仲良くしたいと思ってたりする……?
「結良、どうした?」
部活に向かおうとしている隼人が、ぼーっと立ち尽くすあたしの前で足を止めた。
ハッとしたあたしの目の前で手をひらひらと振る。
「ううんっ、なんでもないっ。今日も頑張ろう!」
笑みで返したあたしだったけど。
ほんの少しだけ疎外感を覚えた放課後だった。