俺は結局、ここで1時間を無駄に費やしてしまった。


何も話なんて聞いてなかったくせに。



「明日、朝のHRでリレーの選手決めしなきゃだねー。タイム順に選抜でいいよね?」


「てきとーによろしく」



書類を揃えて立ち上がり、結良に背を向けた。


……今の俺は、平常心を保つのでさえ難しい。



「え、適当って……凌空っ!?」



背後から続けて何かを言っていたけど、返事をする能力なんて持ち合わせてなかった。




頭がガンガン割れるように痛い。


今はもう、野球のことも……。


なにも考えられなかった。


ショックなんて表現じゃ甘い落胆。


魂を吸い取られたみたいに全身に力が入らない。


多目的室を出てすぐの階段を下り、踊り場で窓ガラスに頭をつけ、目を瞑った。



「……ばっかみてぇ……」







俺が想いを刻み付けたはずの唇は。


……結良の唇は。



隼人のものになっていた。