サーシャはどこか自分の人生を諦めたような、いつどうなっても構わないような、そんな発言をする事が多かった。

きっと過去に何かあったのだろう。
明るく振舞っていても、サーシャの後ろにある黒い影はいつまでも消えることなく纏わり付いている。



「サーシャ」

酒場へと帰る途中で後ろから声を掛けられる。
振り向くとそこには、この町に来たときから親しくしているリムがいた。


リムはサーシャと同じ位の青年で、親と一緒に漁業をして生計を立てている。
リムはサーシャの事が好きでプロポーズされていた。


だが、サーシャは断る。

私はあなたが思っているような人間ではない、私は誰とも結婚する気はない、と。
それでも諦めきれないリムはサーシャの良き友人として親しくしていた。

「あら、リム。今日はもう終わり?」

「ああ、捕った魚も全て売れたし。それより、騎士の事聞いたぞ。昨日店に来たんだって?」

「ええ。一杯酒を飲んだだけで帰ったわ。特にそれ以外何もなかったけれど」

「そうか。ならいいんだけど。まだこの町にいるらしいから」

「へえ。そうなの。でも、私達には関係のない人でしょう。じきにいなくなるわ」