サーシャの口からその名前が出かかったが、ごくりと息を飲み口を噤む。

「・・・忘れたとは言わせない・・・」

無言で立ち尽くすサーシャに、低い声でそう呟く。

「・・・知らない」

サーシャはその言葉を出すのが精一杯だった。
向かいに立つ騎士、ディルはゆっくりとサーシャに向かって歩いてくる。

サーシャは思わず怯む。
そして震えながら後ずさる。