碓氷さんがケーキを持ってきてくれるようになったのは、わたしが小三のとき。


クリスマスにお母さんが奮発して買ってくれた高いケーキがおいしくて、

その割に小さくて、「ケーキもっとほしい」とねだった。


ないものはないので無理だ、と説明されたんだけど、わたしはびーびー泣いて駄々をこねた。


すでに夜はふけていて、開いている店なんかこの辺りにない。


弱ったお母さんが、お隣さんで友達の、碓氷さんのお母さんに電話をかけた。


ケーキ屋さんなら、何かあるかもしれないわ、と言って。


わたしは鼻をすすりながらひざを抱えていたんだけど、しばらくして電話を代わるように言われて。


ぐずぐずしゃくりあげて、受話器を耳に押しつけたら。


――こんばんは、風花ちゃん?


穏やかな声が、ふうかちゃん、とわたしを呼んだ。


それが、わたしが碓氷さんとした、初めての会話だった。


『はじめまして。お隣に住んでるケーキ屋の碓氷です。風花ちゃん、ケーキが食べたいんだよね?』

「うん」

『小さくてもいいかな。俺が作ったのでよければあげるよ。美味しくないかもしれないけど……』

「ほんと!?」

『あー、うん。とびきり甘いのは保障するから』

「食べる!」

『じゃあ、持ってくから、いい子で待っててね』

「うん!!」