「消防士との合コンは?」
「………………行かない」
「岩沼支店に異動願いは?」
「…………出すわけないでしょ!」
「ふーん」
午前8時。
どちらともなく目が覚めた。
カメ男のあったかい腕の中でダラーッと甘えていたら、そういう妙な質問をされたから呆れ返る。
どうせどんな答えが返ってくるのかほぼ確信してるくせに、わざわざ聞いてくるなんていい性格してると思う。
ロンT越しでもじゅうぶん伝わってくるヤツの意外と筋肉のついた体。
ヒョロヒョロしてるかと思いきや、やっぱりそうじゃなかった。
消防士並みとはもちろんいかないんだけど、それなりに男らしい体つきで昨夜はビックリしたもんだ。
借りた部屋着はなんかの柔軟剤のいい香りがして、そしてぬくぬくと温かい。
ヤツの二の腕を手でグイグイ押しながら筋肉の感触を確かめて、そして聞いてみる。
「あのさ、なんでこんなに筋肉ついてるの?」
「………………ボルダリング」
「え?なに?」
「ボルダリング。週に3回行ってる」
まだ重かった瞼が、驚きで見開いてしまった。
信じられないという目でヤツを見ていたら、それが伝わったらしくてカメ男は微笑んでいた。
「そんなに意外?」
「うん。そういうの興味無さそうなのに」
「勝手に決めないでよ」
ははぁ、そうかそうか。
私が思い込んでいただけで、ヤツの「ふーん」って興味無いわけではないってことなんだ。
案外興味を持って聞いてくれているのかもしれない。
だって忘れかけていたけれど、この人は言葉も表情も人より少ないんだった。
ほんとにほんとに、厄介な男だなぁ。
そんなヤツを好きになった私もだいぶ厄介な女だけど。