夏になり始めのこの季節に、見ても暑苦しい法衣姿の忠尚(ただひさ)が、ちっとも利かないエアコンに苛立ちながら、声を荒げる。

「こんな時間から行って、見合いも何もないわよ。

 やっぱり、こんなおじさまの顔潰すような真似、するべきじゃなかったわ」

「お前がはっきり断われる性格ならな」

 忠尚の足許から声がした。

 同じく法衣姿のその男は、忠尚の兄、和尚(かずひさ)だ。

 2シーターの、しかも死ぬほど狭いこの車に無理やり乗っているにも関わらず、その顔は澄まし切っている。

 この二人は龍造寺の跡取り息子で、青龍神社の透子とは幼なじみだった。

 一応、一卵性の双子なのだが、醸し出す雰囲気がまるで違うため、比較的容易に区別はついた。

 忠尚と同じはずなのに、一際よく通るその声で、和尚は言った。

「断言してもいいぞ。

 行ったが最後、お前はなんだかわからないうちに次の約束をさせられ、勢いに押されて式場に行って、気がついたら見も知らぬ家で、相手の男の顔も覚えぬうちに結婚してしまっている。そういう女だ」

 ―なんてこといいやがる。

 横目に和尚を睨んでみたが、彼の自分に対する予測が、いつも予言のように当たっているのも確かだった。