「ごめん」

「んーん。俺こそ、勝手にいろいろ言って触ろうとしてごめん。……隣、座ってもいい?」


うん、とこちらが顎を落とすように頷いたのを確認してから、日向くんが椅子を引く。


どかりと腰を下ろし、鞄を机の隅に追いやって、わたしの方に体を向けた。


「責めてるんじゃないんだけどさ」

「うん」

「なんで逃げちゃったのか、教えてほしい」

「……うん」


そんなの、いっぱいいっぱいだったからなんだけど。あとばれそうだったからなんだけど、うまく言えない。


口ごもるわたしに、日向くんはからりと笑った。


「俺の勘違いじゃないといいなと思うんだけどさ」


左京さん左京さん。


「耳、赤いよ」


パッと耳を押さえて顔を上げると、「やっぱり左京さん、耳気にしてるでしょ」と指摘された。


「う、……はい、そうです……」


怖くない言い方で、どう考えてもその通りだったので、うまい言い訳を思いつかずに頷く。


「ん、そっか」


日向くんも頷いて、左京さんはさ、と自習室入り口に掲示してあるカレンダーを見遣った。


「今日、何日か知ってる?」

「しがつ、ついたち」


そうだよ。四月一日。エイプリルフールだよ。


「ねえ、俺に触られるのやだ?」


嫌ではない。嫌ではないけど、どきどきする。


返事をしようとしたのに声がうまく出なくて、ぶんぶん首を横に振った。きっと、わたしは今、どこもかしこも熱くて赤い。


そっか、と小さく呟いて、日向くんの指先が、やり直すみたいにわたしの左耳に触れる。


「ね、左京さん。さっきのやだって言ったの、エイプリルフールの嘘ってことにしてくれない?」


ほんとのこと、教えてよ。