「数学は好きだったかな。その前に嫌いな教科はなかったよ」
「つまんない答えだなぁ。……でも先生らしいけど」
1日溜めておいた笑顔を、ここぞと言わんばかりに振舞う小林。
その表情はあどけなく、教室にいるクールな小林の影なんかなかった。
頬を少し染めて話す小林に、オレの胸の奥が鈍く痛んだ。
だけど、そんな嬉しそうな小林の笑顔は、高遠の一言で消えていく。
「それより、小林。お昼の弁当だけどな、いつもここに持ってこられても困るんだ」
気まずそうに言った高遠を、小林が見つめる。
その小林の表情は、いつも教壇に立つ高遠を見つめる、あのひどく切ない顔だった。
「迷惑……?」
やっと絞り出したような消えそうな声が、静かに落ちた。
そのまま泣き出してしまいそうな必死の微笑みが痛々しくて、思わず抱き締めたい衝動に駆られる。
だけど高遠の表情は極めて冷静で落ち着いていて……そんな態度に腹立たしさを覚えた。
付き合ってんだろ……?
なんであんな顔した小林見て、んな余裕かましてられんだよ。
……やっぱり高遠は冷血人間だ。
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