「でもさ、相手の幸せを願って身を引くとかってどう思う?」

「……いんじゃねぇ? それも愛だろ」

「愛……かもしれないけどさ、オレはなんか好きじゃないんだよな。

気持ちをぶつけきって引くなら分かる。


けどさ、自分1人で考えて出した結論を相手に理由も言わず押し付けて……極めつけ、それはおまえの為とか言われても訳わかんなくね?

自分1人の問題じゃなくて相手との問題なのに、2人で決めないのは……なんかなぁってオレは思う」

「……おまえそんな顔して結構考えてんだな」

「まぁな。つぅかそんな顔ってなんだよっ」

「そんな顔だよ」


納得いかなそうな岡田に笑顔を向けると、岡田が何かを思い出したように表情を輝かせた。

そうゆう時の岡田は本当にいい顔をする。

……子供みたいなっていうか、犬っころみたいな。


「な、それよりさ、合宿所の隣に古い寮があるの知ってるか?」

「あぁ……矢野センが住んでる所だろ?」

「そうそう。で、女子生徒が1人住んでるんだけどそれも知ってる?

市川っていう3年の女子」


「市川……あぁ、矢野センとよく一緒にいる女子か」


オレの脳裏に、いつも数学学習室にいるあの女子生徒の顔が浮かぶ。

少し気の強そうな、澄んだ瞳が小林に似てる人……


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