どうする?どうしよう、どうしようどうしよう。

単純に、私が甘かった。
今までぽんぽんと事が進んでいったからって、こんなにうまく…

「…君はもしかして…昔、泊まりに来たことがあるかい?」

…え?

私は落ちていた視線をあげた。

そこには、優しい笑みを浮かべる支配人の姿。


「…やはり。昔ご家族でこの階にとまられてたでしょう…
あ、こんなになれなれしくなってしまい、失礼を」

慌てたように頭を下げた支配人さんには、あの時の狂ったような影が感じられなかった。
その笑みも、作られたようなものには見えなかった。


「…そうです。懐かしくなってしまって。

ちなみに今日は友人と泊まりに来ているんです」


「名義はご友人のものでしたか。気づきませんでした」


「はい。スキー旅行に来ているんです」


適当に、適当に適当を重ねてうそをつく。
私の周りにいるみんなもうんうんとうなずいている。


「それで、ここって何があるのかなって気になってしまって…すいません」

「ああ、別にいいのですよ。
この屋上だって、本当は開放しても構わないのですが」

「ではなぜ…立ち入り禁止に?」


私の言葉に、支配人さんはふっと…一瞬、寂しそうな顔を浮かべた。


「…ここに入ると、なぜでしょう、何かおもいだしたくないことがあるような気がしましてね…

ああ、忘れてください。いわくつきとかそんなものではないんですよ」


思い出したくないこと…

…そうか。冬夜の存在が消えているこの世界では、もう支配人さんはあの事件も、自分が犯した罪も自覚していないのか。