「…ううん。なんでもない。

みんな、こっち!」


エレベーター脇の、少し重めの灰色のドア。

関係者以外立ち入り禁止、と真新しいシールがそこには貼ってあった。

案の定、というかなんというか…やっぱりそこにはかぎがかかっていて、私たちにはどうすることもできない。


「…こうゆうときに使うんじゃないの、神の力ってやつを」

「でもあたしたちこっちで使ったことないし、そもそも鍵よ開け!みたいなことやったことないし!」

「…無理やり壊しますか?」

「いや、防犯カメラとかあるだろ…て、あ!?」


夏樹が勢いよく上を向く。

つられて向いた先…そこには、私たちを映しているのであろうカメラが存在するのだった。


「…おい、やべえぞ…」

「…忘れてたあ…」


どうしようどうしようという考えが埋まるのも一瞬で、チン、という小気味いい音が鳴った。
そしてゆっくりと、横のエレベーターが開く…


「お客様…」


エレベーターからは、きれいな黒の従業員の制服に身を包まれた男の人が出てきた。
きれいに整えられた髪に、胸にはオレンジのライトに反射して光る…”支配人”の文字。


「そこは、関係者以外立ち入り禁止ですよ」


まぎれもない。
数年ぶりに見る…冬夜の義理の父であり、彼が冬斗を生み出した原因の張本人である、支配人に違いなかった。


「すいません…でした」