「佐藤さん、手伝ってくれたんだって? ありがとうね。お菓子、どれがいい?」


にこにこ穏やかに笑うおじいちゃん先生の手には、掃除とかテストとかで頑張るとおじいちゃん先生がくれるお菓子が、しわくちゃな手のひらからあふれそうにのっていた。


「佐藤さんは佐藤くんと同じクラスじゃないだろう? わざわざありがとうね。特別二つね!」

「ありがとうございます」


にっこり笑ってミルクチョコとおせんべいをいただいた。


わたしはおじいちゃん先生のこういうところが好きだ。


おじいちゃん先生は、「最近物忘れが激しくて悲しい」と嘆くけど、生徒の所属と名前は絶対に忘れない。


「佐藤くんも急に頼んでごめんね。ありがとうね」


おじいちゃん先生は穏やかに笑って、特別二つね、とそうちゃんにも言った。


多分、数を合わせてくれたんだろう。


そうちゃんはクッキーとウィスキーボンボンを手にとって、綺麗な姿勢でお礼を述べた。


「ありがとうございます」

「うんうん、ありがとうねえ」


にこにこ笑うおじいちゃん先生。


癒し。癒しだ。


ほんわかするわたしに、そういえば、とおじいちゃん先生は心配そうな顔をした。


「佐藤さん、家どっちなの?」

「一丁目です」

「あ、近いんだね。佐藤くんは?」

「一丁目です」


じゃあ安心だね、とおじいちゃん先生が穏やかにそうちゃんを見た。


「もう遅いから、ごめんね、佐藤さんのこと送ってあげてくれる?」

「はい。もちろんです」


即答したそうちゃんに嬉しくなった。


ああもう、不意打ちはずるい。


「気をつけて帰ってね」

「はい」

「はい! さようなら!」


ぺこぺこ頭を下げるわたしたちの姿が階段に消えるまで、おじいちゃん先生はやっぱり穏やかに手を振ってくれた。