ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




制服のブラウスの胸元をぎゅっと掴んだ。

心が強い痛みと、気持ち悪さに襲われた。


罪悪感に加えて、『ヤバイ、どうしよう!』という焦りも強くなる。


それと同時に『そんなはずない!私のせいじゃない!』と思い込ませようとする気持ちも……。



私は強い人間じゃないから、人の死の責任なんかと、とてもじゃないけど向き合えないよ。


ナニカを見てしまったからにはもう存在否定はできないけど、あんな化け物を生んだのは私じゃないと思いたい。


私のせいじゃない……絶対に違う……。


色んな偶然が重なって、たまたま私が言った通りの化け物が現れただけだよね。


ムカつくと思った人間が殺されるなんて、そんな神様みたいな力を、ただの女子高生の私が持てるはずないんだよ。



「おーい、遠野、遠野霞ー。
先生の話、聞いてるかー?

ボケーとしてると、お前が困るんだぞー」



急に先生に名指しで注意された。


驚いて「ひゃい!」と変な返事をしてしまい、みんなに笑われてしまった。


そうだ、進路の話を聞かないと……。


無理やり意識をナニカから引き剥がし、進路指導表の説明に耳を傾ける。


でも、先生の声より大きな声で聞こえてくるのは、『私のせいじゃない!』と叫ぶ心の声。


私はナニカを生んでない。

悪いのはナニカであって、私じゃない。

2人の死は、私の責任じゃないんだよ……。