そんなことがあったのを思い出してから、トイレの個室を出た。


入口ドアの方をチラリと見て、誰も入ってこないし見られていないことを確認する。


それから、一番奥の個室の前に立った。

中に入らずにドアを閉め、制服の胸ポケットに挿していたボールペンを取り出す。


トイレの鍵は、尖ったものを使えば外側からでも鍵を開閉できるようになっている。


使用中・未使用の表示が出る金属部分の丸い小さな穴に、ボールペンの先を突っ込みスライドさせ、ドアの鍵を外側から掛けた。



私の頭の中には、敬太の興味を引くための作戦が立てられていた。


でもそれは嘘をついてしまうことでもあるし、人騒がせなことだから悪いことだとわかっている。


それでも、どうしても敬太に構ってもらいたかった。


絵留の話ばっかりじゃなくて、私の話も聞いて欲しいよ。

もっと私を見て欲しいんだよ。


そんか純粋な恋心のための小さな嘘だから……許されるよね?