ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




「喋ったぞ、すげぇ!」

敬太は初めて聞くナニカの声に、子供みたいにはしゃいでいる。


私は肌がゾクリと粟立ち、背筋に冷たいものを感じていた。


そんな気持ち悪い声で、私の名前を呼ばないでよ……。


青ざめる私の前で机と椅子の山が、またガタガタンと崩れ始めた。

ナニカが這い出てこようとしているからだ。


「敬太!」

「おう。霞、走るぞ」


早く学校の外に逃げたい気持ちでいっぱいだった。


それなのに敬太は階段まで走ってくると、下ではなく上に向かおうとする。


「なんで上なの?
ねぇ、逃げないと!」


そう訴える私の言葉は無視されて、敬太は私の手首を握って一気に4階まで駆け上がった。


ナニカが追ってくる音はすぐそこまで聞こえていて、もうこの階段で下に降りることはできなくなってしまった。


焦る私と対照的に、敬太は鼻歌を歌いながら一番近くの教室のドアを開け、中から大きなバケツを二つ持って出てくる。


階段の上り口にバケツを置くと、私に聞いた。


「これ、なんだと思う?」


バケツの中は白い粉が満杯。


「え? 分かんないよ……」


そんなことより、ナニカが追ってくるから早く逃げたいのに。

そう思う私に、敬太は得意げに言った。


「凝固剤だよ」