ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




机と椅子の崩れが止まったら、敬太の笑い声と雨の音しか聞こえなくなった。


ナニカが出す、ブクブクボコボコという音が聞こえてこない。


もしかして……本当にやっつけたの?

机と椅子に押しつぶされて、ナニカは死んでしまったの?


敬太が懐中電灯の光を、まっすぐにナニカに向けた。


ドロリとした黒いスライム状の物が、ねっとりと机や椅子に絡んでいるのが見えた。


顔のパーツは浮き出たままで、ふたつの目の瞼は固く閉じられていた。


動かないナニカを見て、喜びがこみ上げる。

「やった……」そう呟いた時、ナニカの右の瞼が急に開いた。


パッと目を開け、その目がギョロリと私を見る。

白目は血走り、黒目は電灯の光を映す。


そして……椅子の足に絡まっている唇は、ゆっくりと言葉を口にしていた。


「カ、ス、ミ……」


その声に聞き覚えがあった。

絵留の声だ。

でも、絵留だけじゃないみたい。

桜井先生の声にも似ているし、飯塚先輩の声にも聞こえる。


まるで3人の声が重なったような不気味な声で、ナニカは私の名前を呼んでいた……。