「やっぱ、ダメか」
そう言って敬太は、アハハと声を上げて笑った。
楽しそうな敬太の横顔に、ゾッとした。
包丁で切っても倒せない相手を前に、どうして笑っていられるのか私には理解できない。
「敬太、お願い……逃げようよ……」
泣きそうな気持ちになりながら呟いた時、ナニカが動いた。
ブクブクブクっと体を震わせると、体の横から触手のような黒く長い物が2本飛び出した。
それをこっちに向けて伸ばしてくる。
「捕まるかよ!」
敬太はヒラリと触手をかわし、私の隣に来ると、包丁を投げ捨てた手で私の手首を握った。
「霞、こっちだ。走れ!」
やっと逃げる気になってくれたのかと思い、敬太に引っ張られて走ったが……廊下の先は階段に着く前に行き止まり。
机と椅子が積み上げられた、バリケードが作られていた。
「敬太がやったの?
これじゃ通れないよ! 」
「潜れるから心配すんな」
バリケードのちょうど真ん中の机と椅子の間に、よく見ると人間ひとりがギリギリ通れるような隙間が開けられていた。
敬太はそこに私を押し込み、後ろから自分も続く。


