けれど、期待は虚しく消されてしまう。
廊下に広がっていた黒い液体は、一ヶ所に集まり出して大きく膨らみ、再びナニカの形に戻ってしまった。
「すげぇ、こいつ、自由自在に形状を変えられんのか!」
敬太が興奮を抑えきれないような声で、そう言った。
体に斜め掛けしているボディバッグを素早く開けて、敬太は中から何かを取り出していた。
それは、包丁。
刃渡りが20センチほどの短刀みたいな包丁で、懐中電灯の光を浴びてキラリと怪しく光っている。
ナニカも怖いけれど、包丁を手にニヤニヤしている敬太も怖くて、私はジリジリと後ずさって3メートルほどの距離をとった。
ナニカは一度消えた顔のパーツを、再び浮かび上がらせているところ。
ブクブクブクっと震えるナニカに、敬太は自分から近づいて行くと……勢いよく包丁を振り下ろした。
敬太の包丁が、目と鼻の間をスッパリと2つに割った。
悲鳴が上がるわけでも血しぶきが飛ぶわけでもなく、切断面はただドロドロしているだけ。
割れた部分が左右にグニャリと垂れ下がっていたが、すぐに中心部分に吸収されて、数秒後には元のナメクジみたいな形に戻ってしまった。


