敬太は洋楽が好きで、アメリカの何とかっていう若手ロックバンドに夢中らしい。


そのボーカリストの出身地に絵留が行くというだけの薄っぺらい繋がりの話でも、敬太は嬉しそうに話題に食いついていた。



「いいなーペンシルベニア。
俺も行きてー」



「ふふっ、敬太君って、そんなにあのバンドにはまってるんだね。

もしかしたら、空港とかにグッズが売ってるかもしれないよ?
あったら、お土産に買ってきてあげる」



「マジ⁉︎
サンキュー! 絵留っていいヤツ!」




ずるいよ、絵留……。


私の家は、小さな小料理屋さん。

従業員は、お父さんとお母さんのふたりだけ。

お昼から深夜まで一生懸命に働いてくれる両親には感謝してるし不満もないけど、海外旅行かぁ……いいなぁ。


家がお金持ちなだけで敬太に『いいヤツ!』と言ってもらえる絵留が、羨ましい……。



絵留の周りは明るい笑い声に包まれていた。

いつもは私もみんなと同じように笑っているけど、今は辛くなって、「ちょっとトイレ」と言って輪を抜けた。