ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




ブクブクッ、ボコボコボコッ。

徐々に近づいていたナニカの音が、今はすぐ後ろに聞こえていた。


「クソッ!」

敬太が悔しげに叫んだ。


一見、緊迫した状況でも、私の心はウキウキ弾んでいる。


楽しくて思わず笑い出しそうになった時、つま先を石に引っ掛けて、派手に転んでしまった。


しっかりと手を握っていたので、敬太も巻き添えをくって転んでしまう。


それと同時に、ナニカが私たちに追いついた。


「霞っ‼︎」


素早く身を起こした敬太は、懐中電灯を投げ捨て、私を守るように上に覆い被さってきた。


突然のことに驚きつつ、嬉しくてついニヤけてしまう。


目の前には敬太のたくましい胸。

力強い両腕が、私をしっかりと抱いてくれて……。


ああ、幸せだな。
ナニカを呼び出して、本当に良かった。


敬太は何かを覚悟して、力いっぱい私を抱きしめ、体をこわばらせている。


ナニカは……私たちのすぐ横を、素通りして行ってしまった。


そうなるだろうと分かっていた私は動じないけれど、殺られると思った敬太は拍子抜けしたように、「あれ?」と呟いていた。