ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




そう願った直後に、ブクブクッボコボコボコと音がした。


今度は遠くない。

みんなから3メートルほど後方の、湖の中からだ。


液体が沸騰するような音は、言い争いをしていたみんなの耳にも聞こえたみたいで、一斉に黙り込んだ5人は、同時に音の方に振り向いた。


真斗の懐中電灯が、湖面を明るく照らし出す。

ただ静かに波打つだけだった水面が、ゆっくりと盛り上がる。


「な、なに?」


琴美が怯えながらそう言った後に、黒い塊が水面に顔を覗かせた。


「ナニカだ……」


黒い体をくねらせて泳ぎ、ナニカは岸辺にたどり着く。


ナニカを照らしている光が小刻みに揺れているのは、真斗の手が震えているせいだろう。


揺れる光に照らされた黒光りする塊は、その場にジッとして、動こうとしない。


スライム状のドロリとした塊の前方が、小刻みに波打っていた。


ブクブクブクッと一際大きな音が辺りに響くと、ナニカの表面に浮き出てきたのは顔だった。