ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




私はひとり、まだ動くこともできずにいた。


ギャーギャー騒ぎ立てるみんなの様子は見えているけど、意識がそこに向かない。


私の目にはさっきのキスシーンが強烈に焼き付いて、心もそこから先に進めずにいた。


キスしてた……。

絵留が、敬太に……。


絵留は敬太のことが好きなわけじゃない。
私への嫌がらせのためだけに、そこまでするなんて酷いよ。


敬太とキスをするのは、私だと思っていた。

いつかそうなればいいなと、憧れていた。


それを奪ったのは、絵留。

絶対に、ユルセナイ……。


心の中に黒くてドロドロした負の感情が、一気に湧き上がってきた。


その勢いは凄まじく、自分の精神力ではとても止められそうにない。


絵留が嫌い。

絵留が憎い。

絵留を……消してしまいたい……。


制御不能な憎しみや怒り、嫉妬の感情で心が埋め尽くされ、私は心でナニカを呼んでしまった。


『出ておいでよ、ナニカ。
姿を現して、私の願いを叶えて。

絵留が憎くて憎くて仕方ないの。
お願い、絵留を闇の中に引きずり込んで、コロシテヨ……』