ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




私の心には余裕が生まれていた。

インチキなクジ引きと嘘のイジメ話で、絵留は私に勝ったつもりになっているのだろうけど、今から逆転してやるんだから。


こっちには証人の琴美もいるし、ここからの絵留は、圧倒的に不利になるはず。


そんな強気な心でふたりとの距離を5メートルまで縮めた。

懐中電灯に照らされて、敬太は眩しそうに目を細めている。


と、その時、絵留が敬太の名前を呼んだ。

敬太は斜め後ろに立っている絵留の方に体を向けた。


すると絵留が突然、敬太の首に両腕を回しかける。

そして……背伸びをして、素早くキスをした。


不意打ちのキスに、敬太は驚き、絵留を引き離すこともできずにいる。


もちろん私たちも物凄く驚いて、その場に足を止めてしまう。


絵留は唇を離してからも、自分のモノだと主張するかのように、敬太の首に絡めた腕を離そうとしない。


「やだ……やめてよ……」


ショックの余り動くことのできない私は、かろうじて絞り出すようにそう呟いた。


数メートルの距離を開け、絵留と私の視線がぶつかる。


絵留はジッと真顔で私を見つめてから、ざまーみろと言いたげに、ニヤリと笑った。