ナニカ 〜生んで、逃げて、殺される物語〜




頭に血が上り、抑えきれない怒りが呪いの言葉となって、心の中に浮かび上がってきてしまう。


『絵留なんか……キエテシマエバ、イイ……』


そこまで思った時、またブクブクボコボコという音が聞こえてきた。


キャンプ場のテントの裏側で聞いた時より、もっと近い場所から聞こえてくる。


ビクッと肩を揺らして音の方に振り向くと、目の前には月の光を浴びて青黒く波打つ湖面が、ぼんやりと広がっていた。


ザザザと打ち寄せる波の音の合間に、まだブクブクボコボコという音が聞こえている。


ハッと我に帰り、慌てて言いかけた言葉を訂正する。


『絵留は消えちゃダメ! 今は大嫌いだけど、元友達だし今もクラスメイトだから、消えちゃダメなの!

ごめんなさい。もう考えないから今の言葉を取り消して! お願いだから、ナニカは出てこないで!』


必死に心で叫んだ。

すると、湖の奥から聞こえていたブクブクボコボコという音は小さくなり、すぐに聞こえなくなった。