密室の恋人

「わかった、わかった。

 じゃあ、俺、こいつと結婚するから」

 ……はい?

 引っ張り出された凛子は、今度は社長と目が合ってしまった。

「蒼汰」

「大丈夫だ。
 この女、いつも俺を見てるから。

 俺のことが好きなんだろう」

 違うよっ!?

 慌てて首を振るが事態についていけず、身体が固まり、あまり大きくは動けなかった。

「また、お前は……」

 蒼汰の性格をよく知る社長は、適当に言ってるとわかっているらしく、そう言うが、

「いや、本当に、付き合ってるんだ」
と言った蒼汰は、ほら、と顔を掴んで強引に上を向かせると、突然、キスしてきた。

 まるで、モノのような扱いに、叩こうとした手を先を読んだように握られる。

「本当だ」
と言う言葉は社長じゃなく、こちらに向けられていた。

 怖い。

 目が野獣のようだ。

 本物のケモノを前にして、所詮、よく吠える小型犬レベルの自分は黙るしかない。

 社長は溜息をつき、

「そうか。
 じゃあ、兄さんにそう言っておくから、本当なら一ヶ月に以内に結婚しろよ」
と言ってきた。

 やはり、嘘だとわかっているようだった。