密室の恋人

 蒼汰は前にしゃがむと、
「だいたい、おかしなことするわけないって、お前、前回、上村さんに駅でキスされてるだろうが」

 そう言いながら、にゃーと遊ぶために、いつか取ってきていた枯れた猫じゃらしで、鼻先をつついてきた。

「やめてくださいよ、もう〜っ」
とそれを手で払う。

 一瞬、蒼汰は笑いかけたが、こらえたようだった。

「いやそれが、上村さんにされても、なんだか挨拶のようっていうか。

 あの人、女子力高いから」

「は?」

「女の子同士でキスしてるみたいなっていうか」

 今日はちょっとそうは思わなかったけど。

 あのときはまだ確かにそうだった、と思いながら、そう言った。

「……女同士でキスすることあるのか?」

「友達とかふざけてやってましたよ。
 私はしてないですけど。

 あ、頬にですよ」

「で?」

「は?」

「今日は、なにされたんだ」

「なにもされてませんよ」

「全然か?」

「……そういえば、頬にキスされましたかね。

 それこそ、挨拶でしょう」
と言うと、おもむろに米俵かなにかのように軽く肩に抱えられる。