密室の恋人

「い、今来ましたっ?」
とつい、勢い込んで訊いてしまうと、

「お前は嘘がつけないな」
と言ったあとで、ひとつ溜息をつき、

「来たのは今だが、信号のところから見てた。
 残念ながら、俺の視力はいい」
と言う。

「今のはなんだ?」
と問われ、自分でもわからず、

「あ、挨拶ですかね?
 ありがとうって言われましたよ」
と言うと、蒼汰は凛子の肩に手を置き、項垂れたあとで小さく呟いた。

「……ちょっと今、仙人殺しそうになった」

「蒼汰さん、仙人は殺せませんから」
と言うと、軽く頭を小突かれる。

「今、阿呆なことを言うと、殴るぞ」

「あの、もう殴ってます……」
と言った瞬間、蒼汰にキスされた。

 いやあの、此処、駅ですし。

 これ、上村さんと間接キスでは、と思ったのだが、阿呆なことを言うと殴ると言われたのを思い出し、黙った。

 もう弁解もしない方がいいかな、と思う。

 余計な言い訳をすると、かえって胡散臭くなり、事態が悪化する気がしたからだ。

「帰るぞ、凛子っ」
と手を掴まれたが、蒼汰はなにかに気づいたように足を止め、下を見る。