鐘を打ち付けるような煩わしい目覚まし時計の音が鳴り響く。

頭から被っていた布団から手を伸ばして探り、やっとの思いでその音の発生源を止める。

眠たいな、二度寝したいな、布団に埋まっていたいな。

そんなどうしようもなく寝ぼけた頭に響いた、


「おはようございます!」


鈴のような声。

ハッと僕の頭は冴えていく。

一人暮しのこの部屋に、僕以外の声なんて聞こえるはずがない。

じゃあ、聞こえた声は…?


「椎?」


不明瞭な視界に映りこんでくる顔。

一気に目が覚めて視界はクリアになる。


「うわあぁあ!」


僕は飛び起きた。

僕に話しかけた可愛らしい顔は不思議そうに首を傾げている。

「椎、どうしました?」

その声を聞いて、その顔を見て、現実を思い出していく。

僕は息を整えながら笑ってみせた。


「…なんでもないよ。おはよう」


するとレイはふわりと微笑んだ。


レイとの共同生活が始まって早2日。

一緒にご飯を食べて、一緒にテレビを見て、

なんだかんだと話をしながら、掃除やら洗濯やらをして、


おやすみと言い合って眠り、目覚めておはようと言い合う、


そんな優しい生活に

僕はまだ、慣れないでいる。


「レイは早起きだね」


目覚まし時計を見ればまだ時刻は6:30。

レイはこの時間より早く起きたのだろうか。

あぁ、もちろん僕とレイは別の布団で寝ている。ついでに別の部屋だ。


僕がなかなか起きなかったので起こしに来たらしい。

するとレイはにっこり笑顔でこう言った。


「今日は私が朝ごはんを作りたかったんです」


でも、とレイは机を指した。

期待を膨らませてそちらに目を向ければ、食パンが袋に入った状態で置かれていた。


「焼いては、ないんだね」


レイはうつむいた。