「なに?」
首をかしげながら覗き込むと、今井くんがふっと視線を逸らした。
その仕草が珍しくて、思わず目を見開く。眉間に少し皺が寄ってる気がするけど、それがなんだかいつもと違って見えて、胸がざわつく。
「やっぱなんでもない」
「なっ……なんだそれっ!!」
あんな雰囲気出しておいて、それで終わり!?期待させといてそれ!?
「今井くん、私は怒ったぞ!」
チラッと横目で見るけど、当の本人は何事もなかったかのように前を向いていて、私の反応なんてどうでもいいと言わんばかりの態度。
……まぁ、うん、知ってたけど。そういう人だよね今井くんは。
でもさっきの“何か言いかけた感じ”だけは、どうしても気になって仕方なくて、胸の奥に小さな引っかかりが残る。
────────キーンコーンカーンとチャイムが鳴って、その音で空気が一気に切り替わる。
それからHRが終わり、授業が始まったけど、黒板の文字も先生の声も、ほとんど頭に入ってこなかった。
気づけば何度も今井くんの方を見てしまって、そのたびに「さっきの何だったの?」って考えてしまう。
昨日のこと、覚えてるのかな。それとも全部なかったことになってる?
もし覚えてたとしたら、さっきのあれは――なんだったの。そんなことばっかり考えてしまって、授業どころじゃなかった。



