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「祐月~風呂入ってくるぞ~、温泉だぞ温泉!!!」
ロビーで渉と二人きり。
柔らかい照明と静かな空気の中、俺はソファに腰掛けてテーブルに肘をつき、なんとなくぼんやりしていた。
頭の中はさっきからずっと同じことでいっぱいだ。
そんな俺の向かいで、落ち着きのない声を上げてはしゃいでいるのが渉。
「早く行くぞ!」
「え~」
正直、今はそれどころじゃない。
この旅行中に、石原さんにちゃんと気持ちを伝えたい。そのことばかり考えていて、温泉なんて正直どうでもいい。
でも、そんなこと渉に言えるはずもなくて、結局は流されるまま温泉へ向かうことになった。
ーーガラガラ……と扉を開ける音がやけに大きく響く。
「2人とも来たのか」
「おっす」
「涼太くん、渉うるさいんだけど」
「そいつ、まだうるさいの治んねぇの?」
「うるさいよな」
「3人してひどいよ!」
中に入ると、すでに湯船には野村と涼太くんが浸かっていた。
湯気がゆらゆらと立ち込めていて、ほかに客の姿はない。さっき見た時計は6時ちょうど。この時間はまだ人が少ないらしい。
少しだけ静けさに安心する。



