妬こうよ、そこはさ。

「その心は」

「いや、寒いと思う」

「そう」


即答、しかも相変わらずな真意に、何だかむしろ安堵した。


彼の貴重なご尊顔は拝みたい。だから作戦は工夫しつつ続行する。


でも、結局最後まで、彼が彼のまま無表情に冷静だったとしても、それはそれで構わない、と思った。


「上着着たほうがいいかな」

「絶対。寒いよ」


実際寒いだろうし、一旦部屋に戻って一番暖かそうなコートを引っかけてきて、彼に見せる。絶対、とも言われたし。


確認ののち了承が出たので、素直にその丈の長い上着を着込んだ。


「行ってきます」

「うん。冷えるし、早く帰ってきたら」

「分かった」


玄関を開けた私は。


——行ってらっしゃいとか、言わないから。


彼がそう呟いたのを知らなかった。