「……なんのつもり?」




見返りもなくそんなことを言う人間なんて、いるわけがない。



しかも私は人間じゃなくて、幽霊だから…なおさら。




「それは、どうやって?って解釈すればいいか?
そうだな、こんなん…どうだよ」




耳打ちしてきた狛は、信じられない事を口にした。



私だけでは考えもつかない…とても楽しそうなこと。



…だけど、そこまでする理由がわからない。




「………ねえ、〈この子〉」


「はーい。何ですか?佐久間先輩」



まだ先ほどまで使っていた『桜』の姿をした〈この子〉が、とてとてと歩いてくる。



「………どう思う?」


「え?どう、って。
別に何も思いませんよ~。

私は佐久間先輩についていきますから…例え何があっても」



そういって狛を見た〈この子〉の目が、少し嬉しそうに、悲しそうに、複雑に歪んだ気がした。



そういえば、私が2回目の呪いのメンバーに狛を入れると決定したとき…来たばかりの〈この子〉は私に従順だったのに、狛を入れると決定したときだけ、少しの抵抗を見せた。



〈この子〉は〈あの子〉と違って、私が作り出したわけではない。



だから、〈この子〉は多分元々は人間なのだろう。



もしかしたら〈この子〉と狛は知り合いだったのかもしれない。



狛は今まで見てきてとてつもなく勘が良いように見えたから、元々親しい仲ならなんとなく姿が違っても見抜いてしまうのではないかと思えてしまう。



だから、〈この子〉に対して何も思わないようなふうに私に視線を投げかけてきた狛を見ると、少なくとも親しくはなかったのかな、と勝手に推測しておこう。



「ほら、詩野。
仲間もこう言ってることだし、良いだろ?」



でも、狛。



それは、私に協力して人殺しになるってことになるんだよ?



もっと言えば…狛は死んじゃうんだよ。




それでもいいの?




「…………俺にだって、死んでも果たしたい怨みの1つや2つあるんだよ」




なにも言わない私の疑問を汲み取ってか、狛は寂しそうに呟く。



…その顔が、生前鏡をみると必ず見えた私の顔に重なった気がして。


思わず、私は反射的にその手を握ってしまった。



すぐにしまった、と手を引こうとしたけれど、すでに握り込まれてしまった手はピクリとも動かなかった。



どうやら握手のような形になってしまったこれを、狛は了承の意ととったらしい。