「……なぁ、お前。そのまま学校行く気?」

「え、なんで?」



なんかおかしいっけ。

髪が跳ねてる? いやでも全部お団子にしてるからそんなわけない。

スカートのチャックは開いてないし、靴下もちゃんと左右同じやつだし。



「体操服。また忘れてる」

「あああっ!」



ま、また忘れてた! 危ない!

この前友だちに貸してもらったけど、そのせいで金欠なのにジュース奢らされたんだった。



「取ってくるから待ってて!」



ばたばたとポーチに舞い戻れば、



「ヒメ!」



玲があたしの愛称を呼ぶ。

玲だけの、あたしの名前。



「お前も、待ってろよ」



恋愛感情の混ざらない、ウソの恋なんてない、ただの幼馴染になる日を。



「────うん!
いつまでだってあたし、待ってるよ」



玲のバカ。

またちょっと泣いちゃいそうになったじゃん。



でも、これは嬉し涙だから……いいよね。



「だから玲も、焦んなくていいからね!」



お前は体操服早く取って来いよ、なんて言われて慌てて家に飛びこむ。

騒がしい足音を立てるせいでお母さんに文句を言われながら、階段を駆け上がった。