そう……26歳になったわたしの仕事は、書店員。

そして話の流れからして明らかだけど、彩先輩は作家になったんだ。



学生向けのものがメインで、昔と同じく幅広いジャンルの作品を書くことで人気。

だけど出会った当時とは違い、恋愛を題材にすることも増えた。

彼氏ができたことで、恋愛の表現がとてもリアルになったんだよとこっそり教えてくれた時の、あの女の子らしい表情は忘れられない。



そうして彩先輩は、うちの書店でもたびたび名前を耳にする作家になった。

そのたびにわたしは、そうでしょう素敵でしょう、と思わず密かに鼻を伸ばしているんだ。



時たまふんわりと物語を考えることはあってももう筆を手に取る気はない。

そんなわたしと違い、作品を生み出し続けている彼女はやっぱりわたしの憧れなんだ。



夢を手にした輝く人。

それは、彩先輩だけではない。



運ばれて来たレモンティーを一口飲んだあと、彩先輩はぽろりと言葉をこぼした。



「一条は次はどんな作品出すんだろうね」

「……」



一条くん。

心に突き刺さり、それでいて美しい言葉を扱う彼。



一条くんも今、作家としてどこかで生きているらしい。



曖昧な表現なのは、わたしが一条くんからはっきりと告げられたわけじゃないから。

わたしは彼と、卒業してからただの1度も会っていない。

それどころか連絡も一切していないし、当時の連絡先から変わっている可能性が否めない。

確認することさえこわくて、できていないんだ。